鎮魂リング「黒光」インタビュー

鎮魂リング「黒光」インタビュー

太田初夫さんプロフィール
伝統工芸士
昭和28年生まれ。
水晶彫刻を芸術の域に高めた宅間正一(たくましょういち)氏の最後の弟子。
●「技能コンクール水晶彫刻の部」金賞
●「第34回水晶彫刻新作展」日本伝統工芸士会会長賞
●「第47回水晶彫刻新作展」山梨研磨宝飾新聞社賞
など、これまでに数々の賞を受賞。
伝統技術のもと宝石に細工彫刻をするなど、幅広い分野で活躍している。






───これまでどのような作品を作られてきたのでしょうか?

水晶で観音様をつくったり、龍をつくったり。香炉とか。観音様の目もたくさん作った。
大仏の目とか、震災の後にけっこう注文がきた。全国から。

仏像の名前を教えてくれないの。オーダーがある時に。こちらはイメージをつかみたいんだけど、一部分しか教えてくれないの。
普段の仕事は、そんな感じで頭の中でイメージしながら作るわけ。

それは玉を磨く工程でも同じなんだよ。研磨する時には砂で隠れちゃうから。
自分の頭のイメージの中で「今はこういう感じになっている」とか、感覚で覚えない。
それがふつうの仕事とは違うところかな。

───黒曜石から指輪を作ったことはありますか?

水晶やメノウで色々な彫刻や装飾品は作って来たけど、黒曜石で指輪を作るのは今回が初めて。この仕事をして今年で47年目になるけどね。

これまで、丸石(鎮魂石)はたくさん作って来たから黒曜石そのものには馴染みがあるけど、それで指輪を作るのは初めてだな。

丸石(鎮魂石)も指輪も同じアルメニア産の原石からとっている。

こんな風に切り出して、だいたいの形を出したら、あとは手作業で指輪の形に、何度も磨いして仕上げている。

───アルメニア産の黒曜石の特徴はありますか?

黒くないのが多いのが特徴かな。
国産の長野のだと、もっと黒い。
アルメニア産は、強い光をあてると、茶色くなる。ブラジルのは真っ黒。

アルメニア産の色が薄いっていうのは、不純物の量が少ないからじゃないかな。
ブラジル産など他の黒曜石が光を通さず黒いままなのは、不純物が多いからなんだ。
もちろん指輪になっても同じで、光を通す黒ってのが特徴だと思うよ。

───職人になったきっかけ

47年前に宅間正一(たくましょういち)先生に出会った。
この業界で一番有名な先生で、あともう少し長生きすれば人間国宝になれたんだけど。伝統工芸士の審査員をやったりしてた先生なんだ。

この業界では、10年修行して、独立する。
10年が目安。

絵を描くことや粘土彫刻は子どものころから好きで、大学の卒業をひかえ進路を決めかねていたとき、友人の父親が、

「宝石の彫刻をしてみたら?知り合いに有名な人がいるから紹介するよ」

と言ってくれて。面白そうだな、と思ったの。
それで二十歳のときに連れてこられたのが宅間先生のところ。

47年やってるけど、辞めたいと思ったことは一度もないのよ。
丸石を磨いていると無になれるんだよ。
どんな原石でも人が磨かなければ輝かないからね。
「石に想いが乗る」っていうけど、それが面白いのかもしれない。


───作品づくりで難しいところは?

直径50センチぐらいの大きな原石でも傷や不純物のない部分は限られているの。
だから直径5cmの鎮魂石を2つしか作れないこともあるよ。

今回の指輪も鎮魂石と同じものだけど、目で見て、あとは経験で内部に傷がない部位を切り出すところからはじまる。

黒曜石は物性的にはガラスと同じなので、
強い衝撃で欠けたり、割れたりするので注意が必要だよ。

だいたいの形を機械で削り出したら磨きの工程になるんだけど、磨きが8割。
一番難しいのが、磨き。艶出し。

中国は大量に機械にかけて、自動で磨くんだけど、
やっぱり手の感覚がないと出せないものがある。

手で出来なくて下手な人から機械化していったんだ。

それでもさ、 天然の原石から切り出しているので、 磨いてみないと分からないキズが出ることも結構あるの。

切ってみて、中を見ると1つも使えないこともあるんだ。
そんな時は、原石を買った時に金かかって、切るのに金かかって、今度は捨てるに金がかかっちゃう。

───これだけしゃべる職人さんはじめて。

はは。よく言われるよ。

太田がしゃべらないと、「こいつなんだ?大丈夫か?」と、むしろ心配される(笑)
何か失敗したんじゃないかと。

俺は後輩を怒ったこともないし。
子供も2人いるけど、怒ったことない。

石もね、怒ったり憎んだりした時は、光がなくなるの。

俺の先生がね、言ったのよ。
「石がなりたいものにしてあげる」って。

それで得意のセリフは「石の声を聞け」
石がなりたいものにつくってあげるというのが、大切。

石の声を聞いてなりたいものにしてあげるというのが、
“俺たちの仕事”ってのが、宅間正一っていう先生の教え。
俺は最後の弟子になっちゃったけどね。

俺、伝統工芸士なんだけど、
「太田さん喋るの得意だから喋ってよ」って
工芸士会からの依頼で、学校に呼ばれていくこともあるのよ。

例えば、定時制の高校とかで子供たちに教えるのよ。
俺一人だけで。

石の説明してくれっていうんだけど、こんなもん一時間も二時間も説明できないじゃん。
途中から世間話してたのよ。4クラスで。

一人で絶好調で話してたのよ。
中にはヤンキーいるじゃん、こいつをどうにかせにゃいかん。先生いるけど、やたら食らいついてたな。

で、終わって片付けてたら、その男の子が俺のとこきたのよ。
「握手してもらっていいですか?」と。
何か響いたのかな、その後で世間話をしたのよ

(この後も談笑は続いた)

俺は信心とかなにもない人間だけれども、
神社にいったら手を合わせるもん。

人間ってそういうものだと思う。
どんなすごいやつだって、人間だもん。

ふとした時に救われるものがあったらいいなと思うもん。
そういう時に何もないと拝みようがないから、何かあったら。
それが昔から、水晶だったり黒曜石だったりなんだろうね。




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